イタリア音楽留学のリアル vol.4 サンタ・チェチーリア国立アカデミア

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サンタ・チェチーリア国立アカデミア 入試

イタリア時代の最後は、ローマにある名門「サンタ・チェチーリア国立アカデミア」の室内楽科に在籍しました。

この学校は現在のイタリアで最もレベルの高い学校で、国内で唯一のアカデミアです(サンタ・チェチーリア音楽院、いわゆるコンセルヴァトーリオは、まったく関係のない別の組織の学校です)。

主な卒業生としては、ピアニストであり指揮者のダニエル・バレンボイム、今をときめく新進気鋭の若手、ベアトリーチェ・ラーナなどです。世界的に認める巨匠であるバレンボイムが学校の先輩であるのは、なんともうれしいことです。

この学校の入試は、とてもシンプルなものでした。

  • 任意のソロ曲(10分)
  • 任意の室内楽曲(10分)
  • 初見課題
  • 面接

室内楽での受験でしたが、合格の基準は極めて厳しいものでした。

弦楽器3つ(ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ)とピアノ、それぞれ多くても5人しか採用されません。

私の1つ上の学年のチェロは0人でした。つまり、合格者がいなかったということです。

年齢制限も29歳までですので、日本で音大やって大学院、それから留学して音楽院やって・・・などとやっていては、とても間に合いません。

ここの受験には、当然ですがハイレベルな人しかやってきません。

なので、事前の課題曲ではほとんど差がつかないので、意外にも重視されているのが、「初見」です。

1分間の目視のあと、いきなり弾き始めて、どれだけ芸術性の高い演奏ができるかがカギで、楽譜の中にはたくさんのアーティキュレーションや強弱、その他たくさんの指示が書かれています。それらを瞬間的に分析して、見ただけでどれだけ高いクオリティの演奏ができるかがみられています。

課題曲の成績が良くても、初見ができないなら受かりません。

サンタ・チェチーリア国立アカデミア 室内楽レッスンのリアル

レッスンは、室内楽の実技のみでしたので、純粋に実技に没頭することができました。

先生はロンバルディア州のマントヴァに住んでいて、月に2回、3~4日ローマに滞在して集中的にレッスンが組まれます。その先生の都合に合わせて、学生もローマに集まります。そのため、必ずしもローマに住む必要はなく、私もチェゼーナの音楽院で非常勤講師をしながら通うことができました。一番遠い人はドイツのマンハイムからローマに通っていました。

実技試験は、毎年3曲、合計で60分以上、2つ以上の編成を含むものでした。そのため、毎年3~4つの室内楽グループを組むことになります。

この3年間に私も、デュオ、トリオ、カルテットなど様々な編成を経験しました。

強者揃いの同級生

私の学年は、ヴァイオリン5人、ヴィオラ3人、チェロ4人、ピアノ4人の計16人で、ほか15人はイタリア人でした。つまり、私は学校のなかで唯一の外国人だったのです。

ほかの学生もみんな優秀で、約2週間おきのレッスンの間に国外の国際コンクールであっさり優勝していたり、有名なオーケストラのトラを務めたり、リサイタルをどこかでやってきたり、とても同じ星の人間とは思えないほどでした。

そんな優秀な同級生たちは、当然ですがほとんどローマにおらず、先生が来る日程に合わせてローマにあつまり、パーっと合わせをしてレッスンに臨みます。その速さも、さすがはプロの卵、という感じで、これまで音楽院で過ごしてきた時間はまるで子供のおままごとのように感じるほど、異次元に運ばれたようでした。

室内楽はグループで同じ音楽を作るわけですから、当然ですがディスカッションが必須です。

音楽の理解も速く、技術習得も速いメンバーとイタリア語でディスカッションすることは、イタリア留学1年目の私だったらとてもできなかったことです。しかし、音楽院で、学部、大学院をやって、オペラの現場で楽曲分析を鍛えられた後だったことが幸いし、音楽づくりに関しては必要な時に自分の意見をしっかり提示することはすでにできていました。

今思うと、入試の初見課題では、それができる人物かどうかも見ていたはずです。

オペラの現場で楽曲分析を鍛えられた経験談はこちら。

完璧主義、進級か退学かしかない世界

さて、レッスンは学校で一番大きなレッスン室で行われ、たくさんの学生が聴講しています。みんなの前で賞賛されるか、公開処刑のどちらかです。

音楽院の世界とはまったく異次元のこの世界では、まるで一流の音楽家を輩出するための養成機関のような様相を呈し、一切の妥協も許されない本当に厳しいレッスンでした。先生はヴァイオリニストですが、ピアノにも詳しく、ピアニストに対しても厳しく的確なレッスンができる優秀な先生でした。

結果、年度末の実技試験のころには、すぐにでもCDを出せるのではと思うほど、クオリティの高い演奏がどのグループもできるようになっています。その完璧主義に耐えられる精神力がないと、たぶん乗り越えられません。

もう一つ、音楽院とちがったことがありました。それは、「留年が存在しない」ということでした。

出席日数が足りなかったら即退学、試験で不合格だったら即退学です。学年が上がった時に、「あれ、あの人は?」と、姿が見えないことが、どの学年にも起こっていました。

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