イタリアではピアノ科で入学して3年間、それからオペラのコレペティ科に進み2年間勉強しました。
でも実際はイタリア1年目からオペラの世界に片足突っ込んでいたので、実質5年間やったようなものです。
そこで有り難かったのは、「現場に出させてもらえる」ということでした。
実際、現場に出ないとわからないことだらけです。
現場に出ないと意味がないです。
日本語では便宜上コレペティと呼びますが(たぶんフランス語かドイツ語)
イタリア語では”Maestro collaboratore”
マエストロと、コラボレーションする、一緒に働く、
つまり、指揮者の右腕、アシスタント、なんですね。
そこに、そもそもの「在り方」の違いがあります。
ピアニストではなく、指揮者です。
指揮者なので、歌手の指導をするのは当たり前、
歌手よりもセリフをよくわかっているのは当たり前
オーケストラのスコアをよく理解しているのは当たり前
なのです。
なので、稽古中に足りないキャストのセリフを入れながらピアノを弾く、というのは
できて当たり前です。
求められて当然です、指揮者ですから。
それが前提で、すべてがやっと始まります。
あともう一つ、大きな在り方の違いは、
「絶対に日の目を見ない人」です。
オペラの稽古の最初はピアノで行われますが、
本番当日はオーケストラです。
公演1週間前くらいに、オーケストラがやってきて、ピアニストとバトンタッチします。
ここで全体としては、音楽がピアノからオーケストラに代わるので、より一層士気が高まるのですが、
ピアニストはここでひっそりと引退です。
それ以上仕事ないので。
2時間、長いと4時間あるオペラを全幕一人で弾けるようになっても、
それを人前で披露する機会などなく、
公演当日はパンフレットの制作メンバーの中に、自分の名前が一行あるだけです。
僕はそこに、不満を覚えちゃったんですね。
「人前で弾かせてくれ」と。
それで、「人前で弾きたい演奏家タイプ」は、コレペティなど無理だと悟り、「もう二度とオペラの現場には入らない」と言い切り、イタリアにおける99%の仕事を切りました。
イタリアで歌手を相手にしないというのは、マジで仕事ないですから。笑
逆に、コレペティに向いている人というのは、「裏方にマジで喜びを感じる人」「自分がスポットライトを浴びるのは向かない人」です。
でも、この時の経験が、まさか後に本を書くことになるなんて、夢にも思いませんでした。
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