なぜ一音の打鍵を見直すことが大事なのか?

今回は、なぜ〈一音の打鍵〉を見直すことが大事なのかについて書いていきます。

みなさんは、一音の打鍵を見直すことを、やったことがありますか?おそらくほとんどの人が、Noと答えるでしょう。それはいったい何のこと?という風に感じるかもしれません。

それは、ピアノという楽器が、よくも悪くも、「鍵盤を押してしまえば簡単に音が出る楽器」だからにほかなりません。

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ピアノ以外の楽器の場合

さて、ピアノは誰でも簡単に音を出せてしまいますが、ほかの楽器はどうでしょう?ヴァイオリンなどの弦楽器は、初めての時はまるでのこぎりの騒音のような音しか出ませんし、管楽器はそもそも音にすらなりません。

私は中学・高校で吹奏楽部に所属し、トランペットを吹き、日本の音大では副科で声楽・エレクトーンを2年ずつと、わずか6か月ですが教職課程で琴と篠笛を経験しました。留学後は副科でパイプオルガンとチェンバロ、それから声楽を勉強し、それぞれわずかな時間ではあるものの、ピアノ以外の楽器も幅広く経験することとなりました。

ローマで室内楽を勉強しているときは、弦楽器特有の奏法をよく観察したり、チェゼーナ音楽院で非常勤講師をしているときは、打楽器クラスの室内楽の指導を担当したりと、室内楽奏者としてはピアノ以外の知識も幅広く持っておかなければなりませんでした。

日本では吹奏楽が盛んなので、管楽器を経験する人は多いかと思いますが、木管・金管問わず、最初はまともに音も出ず、息も続かないため、ただひたすらにロングトーンの耐久トレーニングだったと思います。

それからリップスラーをやるようになり、やっと4小節息が持つようになって、8小節、16小節と増えていき、短い曲が演奏できるようになります。その過程で、音色の美しさを探求するというのが、「導入の段階で」かならず通る道です。これは弦楽器も一緒です。

ピアノの場合

では、ピアノはどうでしょう?赤ちゃんでも、押せば音が出てしまいます。そのため、「1音を磨く」ことの大切さに気が付かないまま、成長してしまうのです。ある程度指が動いてしまえば、派手で音数の多い曲は、勢いでごまかせてしまうので、どんどん難しい曲に挑戦できてしまいますが、やはり豊かでふくよかなフォルテの音色は出ませんし、打鍵が悪いと断線にもつながります。演奏中に弦が切れるというのは、打鍵が悪いからで、正しい奏法を習得していれば、どんなに力強いフォルテでも弦が切れることはありません。

さてここで、それにまつわる興味深い逸話があります。私のフィレンツェでの師匠、グラッツィーニ先生が学生のころ、イタリア出身の有名なピアニスト、アルトゥーロ・ミケランジェリのレッスンを聴講していたそうです。私の先生は現在80歳くらい(2025年1月現在)かと思うので、こういった偉人たちにはちょっと世代を遡れば結構すぐにたどり着きます。

ミケランジェリのレッスンは、現在の価値で1回500ユーロほどだったそうで、当時から高額だったと言っていました。そのレッスンで、学生が「今日はどの曲を弾いたらいいですか?」と聞くと、彼は「何も弾かなくていいから、たった一音で僕のことを魅了してくれ」と答えたそうです。それほど一音一音の音色にこだわっていたということです。

また、《音楽は心から出るもの》であり《音が言葉になるか、音楽にならないか》のどちらかだとも言っていたそうですが、音の質への厳しい姿勢が基本にあることが伺えます。

「それは音楽じゃない」

今でも、「曲の最初の1音目だけで60分のレッスンが終わってしまった」などということは、留学あるあるで、「これまでの日本での時間は何だったのだろう」と、今までの頑張りがすべて無駄に思えてしまうという経験をした人は、実は結構多いはずです。

私は幸運にも、イタリアで勉強するだけでなく、母校チェゼーナ音楽院で非常勤講師をさせていただくことができ、イタリアでの職歴を経験することができました。やはり学生という立場で学校にいるのと、職員という立場でいるのとでは、見せてもらえる世界が格段に違います。

そこで、入試やオーディションの審査を務めた先生方が、時々ぼやいていることがありました。「日本人はよく指が動くが、音が汚いんだよね」。

このセリフは、ローマのサンタ・チェチーリア国立アカデミアに在学しているときにも、たびたび聞きました。「汚い音で弾いてもそれは音楽じゃない」と。

不揃いの音色で、「まるで泥のたくさんついた収穫直後のじゃがいものような、デコボコした汚い音」で、指が達者だからという理由でショパンエチュードを弾かれても、「それは音楽じゃない(non è la musica)」あるいは「音楽をしなさい(fai la musica)」と一蹴されます。

現実は、まるでオペラのように残酷です・・(私は口が裂けてもそんなことは言いませんので、ご安心ください笑)。

確実に音を磨くメソッド

それを解決するためのトレーニングが、ピアノ脱力法メソッド®のベーシック講座「鍵盤での脱力・フィンガートレーニング」の中にある、「黒二本」です。指だけでなく、手首や肩甲骨を使って打鍵し、必要なところには脱力を、必要なところには支えをつくりながら、まるでダイヤモンドのような輝きを放つ透き通ったクリアな音色に磨き上げていきます。

管楽器や弦楽器のコンクールでの審査対象は、まずはロングトーンでの音色の美しさです。ピアノはそこを見落としがちですが、本来は一緒です。

コンクールや入試などでも、レベルが上がってくればくるほど、技術面ではほとんど差がつかなくなります。そこで、緩徐楽章のような、特別なテクニックの要らないまったくごまかしのきかない場面で、いかに美しく歌いあげられるかが勝負の決め手になってきます。

いくら指が達者に動いても、カンタービレが上手に演奏できないのであれば、良い演奏家とは認められません。良い演奏家は、わずか一音でも人々を魅了できるものです。

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注意:オンライン限定です。ZOOMでの体験ワンポイントレッスンご希望の場合、パソコン/ノートパソコンのウェブカメラでご自身の演奏する姿(上半身)を映していただく必要があります。設定につきましては、下記の記事をご参照ください。ZOOM上で実際に音をチェックしつつ説明いたします。

相談のみの場合は、スマホからで大丈夫です。

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