「力を抜いて」と言い続けた経験
みなさんは、どうしても力の入ってしまう生徒さんに対して、どのようなアドバイスをしていますか?
「もっと力を抜いて」「もっとリラックスして」「ピアノ、脱力してね」 このように声をかけてしまう先生は、きっと多いと思います。
しかし実際のところ、それで根本的に解決するでしょうか? 脱力させようとしたら、本来支えるべき手指のアーチもすべて崩れ、こんにゃくみたいにペシャンとつぶれてしまう。 逆に「しっかり指を支えて」と言ったら、指も手首もすべてガチガチに固まってしまい、正直どう声をかけたらいいかわからない。
「ピアノで脱力できない」と悩む生徒を前に、指導法に行き詰まっている先生は、実際のところとても多いのです。今回は、この脱力指導の核心について書いていきます。
「脱力」は感覚語であり、そのままでは伝わらない
「脱力して」という言葉は、生徒さんにはそのままでは伝わりません。 では、ピアノを弾くうえでの正しい「脱力」とは、一体どういう状態でしょうか。
それは、「必要な支えだけを残し、身体のほかの部位はリラックスしていること」です。 完全に脱力した状態だと、まったく芯のないふにゃふにゃな状態になり、これでは音がでません。
第三関節の手指のアーチは支えを保ったまま、ほかの部位は脱力する。そうすることでしっかりと腕の重さが指に乗り、その重量がピアノにストレートに伝わります。それが、美しい音で打鍵するための基本です。 つまり、手指のアーチは支える、ほかの部位は抜くという「オンとオフ」を、体の部位に合わせて巧みに使い分けなくてはならないのです。
ピアノの脱力方法を試して、逆に力が入ってしまった経験をした方も多いのではないでしょうか。 その原因は、100%脱力してしまって、体のどこにも支えがないことにあります。
支えとは、建築でいう「土台・柱」です。 土台もなく柱もない建物は、わずかな揺れであっという間に崩れてしまいます。あなたの手にも同じことが起こっています。 支えるべきものがないので、つぶれるしかない。それをかばうために、腕や手首など本来必要のないところに力を入れて、どうにか崩れないように抵抗しているのです。
これこそが、力を抜こうとすると逆に力んでしまう原因です。 必要な脱力をして、必要な支えを入れる。この相反することを同時に行う必要があります。「脱力」と「重量を使う」というのは別の概念なのです。 このあたりの精度を高く、論理的に言語化する。それが今のピアノ指導者には求められています。
ステップ①:身体の部位に分解して「ピアノ指トレーニング」を見直す
まずは、どの部分の脱力が弱いのか、どの部分の支えが弱いのか、体の各部位を見極めていくことが大事です。
例えば、ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」の第一楽章。左手の長いオクターブのトレモロで、腕を痛めてしまった人は多いでしょう。 この場合、親指の第二関節の支えがなく、マムシ指になっていることがほとんどです。特に、前腕の内側が痛くなる傾向があります。 親指の付け根がへこんで手のアーチが保てず、手首や前腕が力んで最後まで弾けなくなってしまいます。ここを解決するには、親指の第二関節を育てることが不可欠です。
親指を育てる有効なピアノ指トレーニングとして、ピアノ脱力法メソッド®公式教材「にじのねいろ」に掲載されている「おやゆびつんつん」をおすすめします。 親指の第一関節が曲がらないように反対の手で固定し、身体の前で、親指の第二関節を出すように押し出してあげます。道具も必要とせず、いつでもどこでもできる、一番簡単なトレーニングです。
逆に、小指の第一関節がつぶれてしまう場合は、小指の第三関節を鍛える必要があります。こちらは「こゆびつんつん」という名称で掲載されています。小指が育っていない場合は、前腕の外側(伸筋)が痛くなることが多いです。
このように、どの部位が痛むのかで指導法や解決法が変わります。正確に体のどの部位かを特定することが、指導の第一歩です。
ステップ②:感覚を「動作」に変換して伝える
では、どのように指示を出せば生徒に伝わるのでしょうか。 それは、生徒が明確にわかるように、身体の各部位がどのような動きをするのかを言語化し、具体的な「動作」として指示を出すことです。
たとえば、「リラックスして弾いて」という言葉。 これを翻訳すると、「肩甲骨を開いて肘を少し外側に開き、手首から降ろす打鍵で重さを指先に乗せる」となります。
このように物理的な動作として具体的に指示を出せば、生徒も戸惑いなく実践できます。また、どこができていてどこができていないかを、生徒自身で客観的に理解できるようになります。
たとえば「手首から打鍵する」という動作を教えるには、同じく「にじのねいろ」の「ぐーぽん」が効果的です。 これは手指のアーチを保ちながら手首を脱力する、打鍵の最も基本的なトレーニングです。打鍵とフレージングの基本でもあり、ショパンやシューマンなど、手首の柔軟性なしにレガートを作れない曲において必須のテクニックとなります。
身体の動きを言葉だけで説明するのが難しい場合、ピアノ脱力法メソッド®ではバルーンのイメージを使って説明することがあります。 身体の各関節や部位にゴムボール状の球体が入るのをイメージすることで、難しい解剖学的な説明を一気にイメージ化でき、小学生のお子さんでも論理的に理解できるようになります。 実際のレッスンでも、「バルーンを使った指導法を聞いて、こんなふうに体の使い方をすればいいのかと非常に勉強になりました」というお声をいただいています。
ステップ③:ピアノ脱力の練習方法と定着スケジュールを渡す
ピアノ上達において、正しいトレーニングを正しい形で行うことは非常に大切です。 お伝えしたピアノ脱力の練習方法は、鍵盤の前に座っていなくても可能です。電車やバスを待つ間の数分など、思い出した時に日常の中で試してみてください。
それを1日5分、わずか1か月続けるだけでも、驚くほどの効果を実感できるはずです。正しい身体の使い方を習慣化するスケジュールを生徒に提示してあげましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。 論理的で正しいピアノの脱力方法を身につければ、その効果は計り知れません。感覚に頼った曖昧な指導や、やみくもな反復練習で多くの時間を犠牲にするのは、今日で終わりにしましょう。
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