サンタ・チェチーリアのレッスンで役に立った指導とは?
ローマにある名門校Accademia Nazionale di Santa Cecilia(サンタ・チェチーリア国立アカデミア)ですが、そこでは衝撃的なことがいくつもありました。
・楽譜に「→」をたくさん引くこと
・相手の楽譜も譜読みをすること
・最初からすでに完成形でもっていかなければならないこと
・先生がピアノの指導もできること
・1年間かけて1つの楽曲に向き合うこと
今回は、サンタ・チェチーリア国立アカデミアのレッスンで、衝撃的で、役に立ったことを3つご紹介します。
1. 楽譜に矢印をたくさん引くこと
まず入学して最初に言われたことは、楽譜に矢印をたくさん引くことでした。
楽譜に矢印、というのは、初めて聞いたかたはどういうこと?と思われるかもしれませんが、それぞれのフレーズを細分化し、どこに頂点(フレーズのやま)が来るのか、そこに向かって矢印をひくということでした。
16小節での大きなまとまりから、8小節、4小節、さらには2小節単位で分け、小さな頂点(抑揚)がどこに来るのか、それらをまとめ16小節という大きな流れで俯瞰したときにどう処理するか、極めて細かく楽譜に書き込みました。
そのため、譜読みには結構な時間をかけることとなりましたが、これが逆に、譜読みが終わるころにはある程度体に染みついている状態になっていて、結果としてそのほうが、時間がたっても忘れにくいということにもつながりました。
これは当然ですが、ピアノだけに限らず全楽器に共通して言えることです。私はサンタ・チェチーリア国立アカデミア在学中に、同時にチェゼーナ音楽院の非常勤講師をしていて、器楽の室内楽指導をしていました。そこで、表現が平たくなりがちな学生に対して、この理論に基づいて指導したところ、急に音楽が立体的になるなど、指導者としてもうれしい副産物でした。
2. 相手のパートも譜読みすること
私が在籍したのは室内楽科でしたので、当然ですが自分以外の共演者が必ずいます。
上記の楽譜の分析を、自分のピアノパートだけでなく、相手のパートも必ず譜読みをすることが求められました。
例えば5重奏で、ほか4人の演奏者がいる場合、4人分すべて譜読みして分析して楽譜に書き込みます。可能な限り、ピアノで相手パートも弾けるようにします。たとえばヴァイオリンとチェロのピアノトリオの場合は、両手でヴァイオリンとチェロのパートを弾けるようにします。
日本の音大でのアンサンブルや伴奏法の授業等では、ここまで求められることはありませんでした。しかしこのおかげで、それぞれの楽器の特性を理解することができ、弦楽器のアンサンブル指導も可能になりました。
また、それぞれのパートでフレーズの盛り上がりが違う、拍子が違うなどのことがあります。そういったときに、相手のパートをどこまで熟知しているかが演奏をスムーズにすすめるための鍵となるため、自分のパートだけ弾けるようになっただけでは不十分であることも往々にしてあります。
3. 最初のレッスンで完成形をもっていかなくてはならない
そして、初回のレッスンでほぼ完成形を披露しなければならないことも、衝撃的なことのひとつでした。
サンタ・チェチーリア国立アカデミアに在籍する学生はイタリアの中でも強者揃いですので、音楽院の100倍速くらいの速さで曲を仕上げてきます。初回のレッスンでも、音楽院のように手取り足取りテクニックを教えてもらうことはなく、ほとんどすべてのテクニック分析、音楽分析が全員できている状態で、音楽院だと曲の仕上げの段階が、ここサンタ・チェチーリア国立アカデミアでは初回の状態です。
1年かけて1つの楽曲に向き合うため、学期末の実技試験のころには、一発録りでCDでも出せるのではと思うほど、クオリティが研ぎ澄まされているのですが、それが特別視されることは全くなく、ここではそれが平均値の世界です。
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