私は、国立チェゼーナ音楽院で5年、ローマのサンタ・チェチーリア国立アカデミアで3年勉強しました。プライベートレッスンの様子は先生により様々ですが、私が体験したレッスンの様子を紹介していきます。
海外音楽院の入試 イタリアの国立音楽院の場合
私は最初、国立チェゼーナ音楽院にTriennio(3年間の大学課程)で入学しました。
少し話がそれますが、まず入学の実技試験からその課題の多さに目がくらんだのを覚えています。
- バッハ:平均律より、1巻から4曲、2巻から4曲、合計任意の8曲
- クレメンティ:グラドゥス・アル・パルナッスムより任意の6曲
- ロマン派以降の任意のエチュード3曲(それぞれスタイルの違うもの)
- ベートーヴェン:任意のピアノソナタ1曲(全楽章、ソナチネ等は除く)
- ロマン派以降の自由曲20分
もっとあった気がしますが、もはや覚えていません。
通しで弾いて2時間以上はかかると思います。よく受かったなと、今でも不思議でなりません。
試験では全曲弾くのではなく、各カテゴリーからくじ引きで当たったものを演奏するので、試験自体は30分程度です。それを乗り越え、イタリアでは音大1年生が始まります。
ここですでに、日本との大きな違いがあります。
日本と海外の音楽院の違い 毎回公開レッスン
私が通ったイタリア国立チェゼーナ音楽院では、週に1回、60分のピアノのレッスンがありました。日本の大学のように時間割(1限、2限~etc)が設定されているわけではなく、先生との話し合いでレッスン時間は決まります。
日本の音楽大学では、個人レッスンの時間は一人ひとり厳密に決められており、ほかの学生が自分のレッスンを見学することはほとんどありませんが、海外の場合は、門下生が見学していることがほとんどです。
つまり、毎回が公開レッスンのようになっています。
日本の音楽大学でも時々公開レッスンは開催されています。しかし、その受講生はほとんどの場合大学側から推薦された優秀な学生のみです。
日本での個人レッスンは、「〇時から〇時は○○さんの時間」と定められ、「個人の時間」という考え方が主ですが、海外では、できるだけ積極的に他の門下生のレッスンも聴講するよう勧められます。
つまり、「レッスンはみんなの時間」ということです。
これで、自分よりも先を行っている先輩のレッスンの様子を見学できたり、そこからいろいろなことを吸収できたりします。その代わり、練習不足でレッスンに臨んでしまったときは、地獄を見ます笑
イタリアの国立音楽院での学習の日々 試験に向けて
イタリアの音楽院では、各学年の実技試験は年度末の1回のみです。少なくとも45分以上演奏します。3年間のうちに、バロック・古典派・ロマン派・近代・現代・エチュード・コンチェルトを網羅するように、プログラム構成を整える必要があります。
ピアノのほかに、必修科目として、チェンバロ・パイプオルガンのレッスンもありました。同じ鍵盤楽器ですが、まったく似て非なる楽器です。意外にもこれらが、大いにピアノの理解の助けになりました。
ピアノ・オルガン・チェンバロ・また室内楽などさまざまなイタリア人教授からのレッスンを受講して、日本ではなかなか勉強できないことも多くありました。特に、舞曲の理解、宗教、世界史などの背景などは、海外に来なければ学べないものでした。
なかでも舞曲は、言語化するのが難しく、理解するのに相当な時間がかかったのですが、おそらく日本人留学生全員が通る難関でしょう。
西洋人には生まれつき体に染みついていることである一方で、日本人には説明が難しいところなのでしょうが、伝統的なダンスのステップを観たりして、記譜ではとても表すことのできない隠れたアクセントの存在など、自分なりに研究を重ねました。
また、教養としてキリスト教をはじめとした主要な宗教を勉強しておくことは、さまざまな楽曲の背景を理解するうえで助けになりました。もちろん、神話の知識も必須です。
さて、ピアノの個人レッスンは、年間で25回程度だったと記憶しています。つまり、そう多くはありません。その間に、45分以上のプログラムを仕上げなくてはならないので、意外にも忙しいものです。
そしてその演奏には、かなりのハイクオリティなものを求められ、深い音楽性が要求されます。つまり、ゆっくり時間をかけてテクニック等を磨いている時間はありません。
ほかの科目の勉強もありますから、効率よく勉強する技術も求められます。